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Japan

在エディンバラ日本国総領事館
Consulate-General of Japan in Edinburgh

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在ベトナム大使館医務官による鳥インフルエンザの講演概要

高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)の現状およびベトナムの経験と教訓

※高病原性鳥インフルエンザ(HPAI;highly pathogenic avian influenza)

          (講演概要)

                                                2006年6月7日

                                                  於:在エディンバラ総領事館

                                                  講演者:清水 利恭

                                              参事官兼医務官

 

Ⅰ.インフルエンザの基礎知識

 

●感染症の起こり方

○感染症が成立するには(1)感染源がある、(2)感染経路がある、(3)人間に抵抗力がない、という3つの要素がある。このうちどれかを絶てば感性症は成立しなくなる。

○感染の経路は (1)接触感染、(2)飛沫感染、(3)空気感染の3種類がある。

鳥インフルエンザは今のところ、主に接触感染と飛沫感染で伝播するとされている。

●インフルエンザウィルスの構造

○非常に小さくナノメーターサイズで、球形状の表面に突起がある。

○A型インフルエンザウィルスは主に2種類の突起で区別され、(1)ヘマグルチニン(HA)(1~16まである)と、(2)ノイラミニダーゼ(NA)(1~9まである)がある。

○現在、家禽類でA型インフルエンザのH5N1が大流行している。

○A型インフルエンザは総て水鳥(鴨)が起源とされている。

○今まで人間界に定着し、流行してきたのはH1N1、H2N2、H3N2。

○鳥からヒト(ブタ?)への感染を繰り返すと、高病原性のままヒトからヒトに感染する可能性がでてくる。ただし、通常は死亡率が下がる。

●感染ルート

○感染ルートは一般に、鴨から鶏、そしてヒトという流れであるが、鶏から豚を介してヒトに感染することもある(豚は鶏のレセプターと人間のレセプターの両方を持っているため)。

●伝染様式と主な病原体

(1)接触感染:アデノウィルス、RSウイルス、Clostridium difficille、ロタウィルス、赤痢菌

(2)飛沫感染:アデノウィルス、インフルエンザウィルス、インフルエンザ桿菌、髄膜炎菌、マイコプラズマ、ヒトパルボウィルス、風疹ウイルス、百日咳菌、A郡溶連菌、ペスト菌

(3)空気感染:結核菌、麻疹ウイルス、水痘ウイルス

○飛沫感染は、通常咳、くしゃみで感染するもので、ウイルスや菌の周りが水分で覆われているので重たく1から2メートルまでしか拡散しない。空気感染の場合は、状況にもよるが、風などに運ばれて50メートル以上拡散することもある。

●通常のインフルエンザの一般的経過

○感染すると約1から3日くらいで、38度以上の発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛がおこり、その後に咳、のどの痛み、鼻水といった症状が出てくる。そして普通は1週間くらいで軽快してゆく。

○しかし、通常のインフルエンザでも、年によっては日本国内では年間1,000人以上死亡している年もある。大半は65歳以上のお年寄りが亡くなっている。高齢者の場合は細菌などの2次感染によって肺炎や気管支炎などを合併することがある。また、乳幼児の場合では、中耳炎やインフルエンザ脳症などを起こすことがある。

●かぜとインフルエンザの違い

○風邪

 原因=様々なウイルス(2千種類以上)、時に細菌

   感染様式=接触、飛沫

   ヒトの重症度=軽い

   抗ウイルス剤の効果=無

○普通のインフルエンザ

   原因=インフルエンザウィルスA(H1N1、H3N2)、インフルエンザウィルス                   

      B

   感染様式=接触、飛沫

   ヒトの重症度=主に軽い

   抗ウイルス剤の効果=よく効く

○鳥インフルエンザ

   原因:鳥インフルエンザウィルス(H5N1)

         (H5N2、H4、H6、H7、H9)

          高病原性はH5N1、H7N7

 

  感染様式:接触、飛沫、(空気の疑い?)

   ヒトの重症度=H5N1は重症で死亡率50%以上、その他は軽から無症状       

   抗ウイルス剤の効果=効く

○新型インフルエンザ(※)

   原因=新型インフルエンザウィルス(確率としてはH5N1が高いといわれているが断定的な予想はできない)

   感染様式=接触、飛沫

   ヒトでの重症度=現時点では予想不可能

   抗ウイルス剤の効果

  (※)新型インフルエンザは、鳥インフルエンザウィルスが突然変異してヒトからヒトに簡単に感染するようになった状態のものをいう。H5N1が世界中に流行した場合、人類に与える影響は大きく、現在世界中で国際会議等を開き対策を考えている。 

●通常のインフルエンザの対処方法

○睡眠や休養をしっかりとる。

  しっかりと休養し、睡眠をとって体を休めることが大切。栄養も十分にとる。

○乾燥を防ぐ。

  乾燥でのどの粘膜の機能が低下すると、インフルエンザにかかりやすくなる。周りの人への感染を防ぐためにも、湿度は十分に保つ。

水分をとる。

水分を十分に補給する。お茶やスポーツドリンクなど飲みたいものでよい。

市販の薬は避ける。

市販の解熱剤は使用しない(特にアスピリン)。15歳未満は特に注意が必要。別の病気で解熱剤を処方している場合は医師に相談する。

飛沫感染を防ぐ。

マスクの着用で周りの人への飛沫感染を最小限に抑えることができる。

○ 抗ウイルス剤タミフル

抗ウイルス剤タミフルは、熱が出はじめて48時間以内に服用しないと効かない。服用に際しては、医師の処方が必要。

●鳥インフルエンザがヒトに感染した時の特徴

○主に、病気や死んだ鳥と接触した場合に発症する(まれに重症患者との濃厚接触)。

○重症例の経過は、発症は通常インフルエンザに類似しており、24時間から2日くらいで呼吸困難になる。そして2日から5日くらいで急速に悪化する。

   (肺炎、下痢、多臓器不全、白血球・血小板の減少等)

●鳥インフルエンザの動物界からヒトへ感染段階(WHOによる流行の6段階分類)

フェーズ1.動物界でのウイルスの存在

フェーズ2.動物界でのウイルス病原性の増加。しかし、人間には感染せず。

フェーズ3.人間の症例はあるが、ヒトからヒトへの容易な感染はない。

(これが現段階に当たる。フェーズ4への移行は時間の問題とされており、WHOや各国では4になった場合どうするか検討されている)

 フェーズ4.ヒトからヒトへの感染がある。しかし、ごく限定された集団内(患者は5名から30名程度)のみ。この時点での患者早期発見及び封じ込みが大事で場合によっては警察や軍隊を動員して対応することも考えられている。

 フェーズ5.狭い地域での流行

 フェーズ6.世界的流行

 

Ⅱ.高病原性鳥インフルエンザの現状

●現在のH5N1の現状

○東南アジアでは家禽類にウイルスが土着し、世界に拡大しつつある。

○ヒト症例が増加し、フェーズ4ではないが限定的ながらヒトからヒトへの感染(特にインドネシア)が発生した。

○ウイルスは刻々と変異していて、ヒトに感染しやすくなっているが、どのように変化していくかを科学的に完璧に予測するのは不可能である。

○鴨がウイルス貯蔵の役割をしているというのは明確になってきている。

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●鳥インフルエンザのヒトへの流行の分布

2003年12月 今起きている流行の最初は、ベトナムで始まり、

2004年、タイ、そしてカンボジアに広まった。(計3か国)

○2005年7月 インドネシアで発生(この頃からWHOなどが事態の重大さに対し警告を強める)(計4カ国)

○2005年12月 中国で発生

(中国では、末端レベルで鳥のインフルエンザのヒト症例を診断できる医者がほとんどいないので、公表されている数以上に亡くなったヒトがいるという疑いがある。)(計5カ国)

○2006年1月 トルコで発生(計6カ国)

○2006年5月 アゼルバイジャン、イラク、エジプト、ジブチで発生(計10カ国)

○2006年5月29日現在で確定感染確定症例数224件、死亡例数127件となっている。WHOなどでは、きち んと確認されずに死亡したヒト症例がこの数字の10倍くらいいるのではないかと考える人もいる。 

 

●EU域内のH5N1感染拡大

○6月2日、WHOのヨーロッパ事務局が発表した数によると最近4ヶ月で700件以上発生した。(1件はひとつの養鶏所を指す)

○2006年2月、EU内最初のH5N1感染がイタリアで発生した。その後13か国に感染拡大(6月2日現在)、多い国はドイツ 326件、オーストリア 117件、ポーランド・フランス60件以上。

○5月以降、拡大の勢いは減少しているがEU委員会は「脅威は消えていない」と警告している。通常は、夏場にはあまり発生せず、秋口に発生し始めるが、今年はどうなるかわからない。

●ウイルス伝播の仕組み

○渡り鳥が運ぶという説が一番多く言われているが、これだけでは説明できない部分がある。

○生きた鳥を輸出入することにより広まっているではないかとの説がある。合法であれば取り締まれるので問題ないが、非合法の場合は取り締まれないので問題である。特にアジアでは多く見受けられる。ベトナムでは取り締まりが厳しいが、中国との国境地帯では安い鳥がたくさん非合法で輸入されている。

○また、その他の伝播方法もあるのではないかと専門家の間では考えられている。

●世界の渡り鳥、主要行動範囲

○ルートは南の方では分散しているが、北の方では重なっている部分がある。夏場に北の方で鳥同士が接触してウイルス感染し、秋冬に南にウイルスを運んで飛んでゆくという説がある。

 

Ⅲ.ベトナムの経験と教訓

●ベトナムでの高病原性鳥インフルエンザ(HPAI):発生からの経過

○2003年12月から2004年12月

 ヒト症例32名(死亡23名)、2600町村で家畜感染

 家禽処理・死亡45百万羽

○2005年1月から12月

 ヒト症例61名(死亡19名)、940町村で家畜感染

家禽処理・死亡5百万羽

合計:ヒト93名感染(42名死亡)

○2005年11月15日から:ヒト症例なし。

○2005年12月15日から:家禽類の発症もない。

ベトナム、タイは、感染の封じ込めに成功した国とされているが、一方、インドネシア、中国はうまくいっていない国とされている。

●ベトナムにおける高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)制御の教訓

政府の強力な関与・リーダーシップと政策の透明性

  農業省、保健省など省庁間の連携を強化し、首相の強力な指導下、政府全体で取り組んだ。  

2.多分野の共同・協力

 「国家鳥インフルエンザ対策委員会」を設置し、分野を超えた協力活動を推進。

徹底的な家禽類への感染対策

  発生した場合、大量の家禽類の処分をするとともに、処分した農家への経済的援助や補償を行った。また、家禽類に対する予防接種を徹底した。

ヒト感染例への対策強化

ひとつの症例でも逃さず、疑いのある場合は設備の整った指定病院に送り隔離して、検査・治療をする。この為の医療スタッフの訓練・研修も強化。

民衆への啓発・教育活動

地方自治体や住民組織を動員し、マスコミも使って、山間、僻地の住民等へ鳥インフルエンザに関する教育を徹底して行った。

Ⅳ.鳥インフルエンザに対する対応・対策等

●各国、国際機関などの対応

○国際的な共同行動・対策支援の提唱

○インフルエンザ流行期間(12月から3月)前の啓発・予防活動

○流行地での普通のインフルエンザワクチン接種の奨励

○ハイリスク者への肺炎球菌ワクチン接種の奨励

○タミフル他、必要な薬剤のストック(治療および予防投薬)

○個人的予防具(マスク、ガウン、など)の備蓄

○緊急対策ガイドラインの作成(フェーズ4の段階での行動計画)

○人用ワクチン(H5N1型)の開発(早期開発を検討)

●鳥インフルエンザに対する一般的注意事項

○手洗い、うがいの励行

○発生のあった地域の生きた鶏、アヒル、鴨などに近づかない。

○家禽類の生肉、生卵を食べない。

○流行時期にインフルエンザワクチンを接種しておく。

○規則正しい健康的な生活を送る(体の抵抗力をつけておく)。

 (暴飲暴食、偏食、睡眠不足、過労は避ける)

○鳥インフルエンザを疑う症状(急な発熱、筋肉・関節痛、頭痛、全身倦怠感、乾いた咳、咽頭痛、鼻水・・)があれば早めに受診。

●常に最新の情報を入手。

有益なサイト

○世界保健機構(WHO):http://www.who.int/en/

○構成労働省:http://www.mhlw.go.jp/index.html

○国立感染症研究所感染症情報センター

 http://idsc.nih.go.jp/index-j.html

○外務省:http://www.mofa.go.jp/mofaj/

○国連食糧農業機構(FAO):http://www.fao.org/

 

 

 

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